
「その場でのコミュニケーションを大切に、その瞬間に生まれたものに敏感に」がモットーのパントマイム系サイレント大道芸人、しもとり ゆうさん。人形を使った演技を中心に、保育園・幼稚園でのイベントや地域のお祭りなど、様々な場所で活躍されています。子どもから大人まで楽しめる独自の世界観で人気を集めています。今回は、そんなしもとり ゆうさんにお話を伺いました。
「おれとお前と帽子と鼻と……」というショーが大人気だそうですね。このショーについて教えてください。
「これは路上で誰からも注目されなかったぼくが6年かけて磨き上げた5分間のパペットコメディーショーなんです。洗練されたパペットの動きに、5歳くらいの子が『きっと、誰か入ってたんだよ』ってお父さんに推理するほど、『本当に生きているみたい』の声が続出して。Instagramでは329万人にいいねされました」
このショーの特徴は何でしょうか?
「1人で2人を同時に演じるというパントマイムの古典的なエッセンスに、ハットジャグリングという現代的なアレンジを加えた斬新な手法です。簡単に言うと、帽子の奪い合いをする人形コメディーなんですけど、自分の右手を人形の右手として扱うことで、まるで人形が生きているような錯覚を起こさせるんです」

パントマイムの魅力って、ズバリどんなところにあると思いますか?
「言葉を使わなくても感情が伝わることです。しゃべらないから見ている人は『この人、何考えてるんだろう?』と内面に入り込もうとしてくれる。犬や赤ちゃんとのコミュニケーションに似ているかもしれませんね」
しもとりさんによれば、パントマイムは「しゃべってはいけない」のではなく、「しゃべる必要がないからしゃべらない」のだそうです。
「言葉という情報を捨てることで、より感情を伝えることができるんです。言葉があると言葉の意味を追わなきゃいけないけど、一言もしゃべらないと、見ている人は『この人何考えている?』ということだけに集中できる。だからこそ、表現できることもあるんです」
パントマイムのもう一つの魅力は、フィクションの世界に人を引き込める点だと語ります。
「ぼくの芸は人形を使って自分の右手を人形の右手として演じるものですが、終わった後によく子どもたちから『どうやって動かしてたんですか?』と聞かれます。コートに右手を入れる瞬間はおおっぴらに見せているのに、次第に子どもたちは『人形が生きているもの』と思って楽しんでくれる。この世界に引き込める力がパントマイムの魅力だと思います」
園児向けの公演では、どんなことを意識してパフォーマンスしていますか?
「年齢に応じて柔軟に内容を変えることを意識しています。0〜2歳児向け、3〜6歳児向けと、子どもの反応や集中力に合わせて演技を調整しています」
特に子どもたちの没入感と集中力の維持に気を配っているとのこと。
「子どもたちが最後まで集中して見ているか、いつもはすぐにいなくなる子も最後まで見ているかというのは、とても大事なポイントです。参加型・インタラクティブな要素を取り入れて、会場全体を巻き込む盛り上がりを作るよう心がけています」
また、子どもたちの想像力と好奇心を刺激することも重視しているそうです。
「『今何をしているのか』を見つけるおもしろさや、次に何が起こるかを予想する楽しみを大切にしています。驚きや応援、笑いなど様々な感情を引き出せるような構成にしています」
さらに、しもとりさんは「子ども向けに寄せすぎない選曲」や「適切な雰囲気作り」など、独特の空間作りにもこだわりがあります。
「ただ楽しいだけでなく、子どもたちの心に残るような体験にしたいですね。終演後も話題に上がったり、子どもたちが真似をしたくなるような内容を心がけています」
公演中に予想外のことが起きたときはどう対応しますか?
「それこそがぼくの芸の真骨頂です!予想外のことが起きた時こそチャンスだと思っています。例えば、子どもが突然舞台に上がってきても、それを排除するのではなく、その子を即興で芸の一部に取り込んだりします」
「『その場でのコミュニケーションを大切に、その瞬間に生まれたものに敏感に』というのがぼくのモットーなので、予定調和なショーよりも、その場で生まれる予想外の出来事の方が価値があると思っているんです。だから、予想外のことが起きても慌てずに、むしろそれを楽しみながらショーに取り入れています」

しもとりさんがパントマイムの世界に入ったきっかけは何だったんですか?
「実は、大学在学中に『とにかく芝居を見まくる!』と決めていたんです。たくさんの舞台を見ているうちに、以前見たパントマイムの舞台がとても印象的だったことを思い出したんです。『あの時のパントマイムのような表現もいいな』と改めて魅力を感じるようになりました」
日本大学芸術学部演劇学科演技コース出身のしもとりさん。当初は映画の俳優になりたいという夢を持っていましたが、様々な舞台を見る中でパントマイムの魅力に惹かれていきました。
「大学3年のときに、今のパントマイムの師匠のところに習いに行き始めたんです。でも最初の4年くらいは『パントマイム一本で行こう』というよりは、『演技の役に立ったらいいな』くらいの気持ちでした。大学卒業後、演劇の世界で2〜3年やりつくした後、大道芸の学校みたいなところの募集があって。そこから本格的に大道芸の世界に足を踏み入れました」
しかし、大道芸の世界は甘くありませんでした。
「初めての大道芸では撃沈しました。途中でポロポロ帰る人が続出して…。今まで劇場で芝居していた頃は、見ている人が途中で帰るなんてことはなかったので、それがショックで。でも同時に『あ、これでお金もらえたら本物だよな』と思ったんです」
その後4〜5年間は投げ銭収入もほとんどゼロの日々が続いたといいます。一緒に活動していた仲間もだんだんと減っていく中、一人でも路上に立ち続けました。
「普通なら2〜3回やってやめる人が多いんですけど、それでも続けられたのは『今はダメでも、いつかこれがカタチになる』と信じられたから。『今はダメでも、おれ絶対うまくなる!』という根拠のない自信だけはあったんです」
実際に保育園・幼稚園で公演していて、印象に残っているエピソードはありますか?
「5歳くらいの子が『きっと、誰か入ってたんだよ』ってお父さんに推理するほど、ぼくの人形が『本当に生きているみたい』と言われたことがあります。子どもたちの想像力ってすごいなと思いましたね」
また、普段は落ち着きのない子どもが最後まで集中して見ていたというエピソードも多いそうです。
「先生から『あの子はいつもじっとしていないんですけど、今日は最後まで見ていましたね』と言われることがあります。それを聞くと、すごくうれしいですね」
しもとりさんの芸は言葉を使わないため、外国人の子どもや言葉の発達が遅い子どもでも楽しめる点も特徴です。
「言葉の壁を超えて伝わるものがあるというのは、パントマイムの大きな強みですね。国籍や言語に関係なく、同じように笑ってくれるんです」
実際に依頼した保護者の方からも、こんな声が寄せられています。
「前にサイエンスショーやプラネタリウムを呼んだときに『5歳は楽しいけど、3歳がかわいそう』って思ったんです。他にも、『これは男の子は楽しいけど、女の子はちょっと…』っていうショーだったりで、みんながみんな楽しめるものってなかなかなくて。3歳も4歳も5歳も、男の子も女の子も、言葉がわかる子もわからない子も分け隔てなくみんな楽しめるものを探していました。しもとりさんのパフォーマンスはそのニーズにピッタリだったんです」
最後に、保育園・幼稚園の先生方や保護者の皆さんにメッセージをお願いします
「子どもの笑いのツボは、大人とは違います。ぼくたち大人が思わず笑ってしまうことと、子どもたちが楽しいと感じることには、大きな違いがあるのです。
ぼくは、子どもたちの想像力を刺激することを何よりも大切にしています。『これは何だろう?』『次はどうなるんだろう?』と、子どもたち自身が考えを巡らせる瞬間こそが、最も価値あるものだと信じています。
そのために、ぼくは意図的に『言葉』を使いません。
言葉を制限することで、子どもたちは自然と動きや表情に注目するようになります。たとえば、風船が空中で止まったように演じると、子どもたちは『風船が生きてるの?』と不思議そうな顔をします。次の瞬間、その風船がぼくの意に反して動き出したら、どんな反応をするでしょうか。
ぼくの演技が子どもたちの想像とつながり合ったとき、そこに笑いが生まれます。それは、言葉で説明されて理解する笑いではなく、自分で発見した驚きと喜びの笑いなのです。
ショーが終わった後、きっと子どもたちは発見したことやおもしろかったことを、たくさん話したくなるはずです。なぜなら、それは彼ら自身が見つけ出した宝物だからです。
このような、余白たっぷりの想像の世界。それがぼくの目指すパントマイムショーです。お子様と一緒に、言葉を超えた不思議な体験の世界へ、ぜひお越しください。
きっと、新しい発見と笑顔に出会えることでしょう。」
しもとり ゆう プロフィール
しもとり ゆう。人形を使った演技を中心に、その場で巻き起こることに翻弄されるタイプの大道芸をメインに活動している。10年以上のキャリアを持ち、全国各地の保育園、幼稚園、小学校、そして様々なイベントで公演を行ってきた。
子どもたちの反応や想像力を大切にし、一緒に作り上げていくパフォーマンスを心がけている。
パントマイムの技術を駆使しながらも、決して技術の披露に終始せず、観客の皆さんと心を通わせることを最も大切にしている。言葉を超えたコミュニケーションの可能性を追求し、笑いと驚きを通じて、見る人の心に残る体験を提供することを目指している。
2010年より山本光洋氏に師事。路上での大道芸を中心に、商店街のイベントや保育園などで活動中。「おれとお前と帽子と鼻と……」は、6年かけて磨き上げた5分間のパペットコメディーショー。Instagramでは329万人にいいねされた実績を持つ。
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